異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
 国境を越えてすぐ、私たちはミグナフタの国境警備兵たちに迎えられて砲台が設置されている小さな要塞へと案内された。

「ロイ陛下からお聞きしています。よくぞ、ご無事で参られました。ここの防衛設備ならニドルフ王子の追っ手も簡単には手を出せません。優秀な狙撃兵もおりますし、まずは身体を休めてください」

 国境警備兵は私たちに部屋と食事を用意してくれた。

 負傷した者はミグナフタ国の治療師から処置を受けることができ、じっとしていると嫌な考えばかりが頭に浮かんでしまうので、私も微力ながら手伝わせてもらった。

 全員の処置を終えて久々のお風呂に入り、新品の真っ白なネグリジェに着替える。肩口から胸元まで大きく開き、長いスカートはプリーツが施されていて美しいシルエットになっていた。

 私が案内されたのは石造りの壁に木製の扉や窓、真鍮製のシングルベットといったヴィンテージな空間だ。

 この部屋の唯一の明かりは天井から吊り下げられた、蝋燭が二本しかついていないキャンドルランプで薄暗い。これも敵に居場所を悟られないための工夫なのだとか。

 女性だからと私はひとりでベットがもう六つほど置けるこの広い部屋をあてがわれたのだが、他の兵や治療師はミグナフタ軍の兵が寝泊まりする大部屋の宿舎に泊まっている。

 私も宿舎でいいと申し出たのだが、シェイド様に「女性がむやみに男性と寝所を共にするものではないよ」と窘められてしまったのだ。

 私は髪も濡れたままベットに横になったものの、頭が冴えて寝つけないでいた。少し散歩でもしてこようとベットを出ると、気の向くままに二階の廊下の途中にあった外の連絡通路に出る。

「風が冷たくて、気持ちいいわね」

 やや強い風に巻き上げられる髪を手で押さえながら、要塞の周囲を見渡す。丘の上にあるこの要塞の前には月光十字軍が一週間かけて越えきた山脈が広がっており、私の背には城壁に居住区が囲まれている広大なミグナフタの国の城郭都市が見える。

 通路の真ん中まで来ると、胸元あたりまである石垣に肘をついて先ほど超えてきた国境の辺りに視線を向けた。

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