異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「町の治療師とは違って王宮に所属し、王の指示のもと遠征に付き添ったり必要に応じて疫病の発生現場に派遣される。過酷だとは思うが、あなたの知識と技術を最大限に生かせる場所だ」

 私も道具のない場所での原始的な処置技術を学びたいと思っていたので、それはありがたい申し出だ。特に薬草学は知識が圧倒的に不足しているのを此度の戦で痛感したので、ぜひともご教授願いたい。

 中堅の看護師になってからは毎年後輩のプリセプター、教育係として指導する側であることのほうが多かった。なので学ぶ機会をもらえるというのは、いくつになっても心が浮き立つものだとしみじみ感じる。

「私は月光十字軍の皆さんと一緒に死線をくぐり抜けてきて、少しですが皆さんの目指すものや戦う理由に触れました。そして力になりたいと思った。私にできることはなんだろうと、ずっと考えていたんです」

 ミトさんの言う通り、私はきっと皆とただ一緒にいられるだけでいい。そんな些細な幸せを守るために、私は私の戦場で戦いたいと思う。

「この世界にいきなり飛ばされて居場所がなかった私に、新しい道を示してくださってありがとうございます。王宮治療師になって、あなたを支えられるように頑張りますね」

 あの世界へ帰るのそのときまで、居場所をくれたことや私を必要としてくれたことへの恩を返そう。

 自分の進むべき道が見えた私は、シェイド様に深々とお辞儀をする。顔を上げると、シェイド様は動きを止めて、じっと私に見入っているようだった。

「あの、シェイド様?」

 微動だにしない彼におずおずと声をかける。それにハッと我に返った様子で一瞬、目を見張った彼は繋いでいた手にギュッと力を込めた。

「そんなふうに考えてくれているとは思わなかった」

 彼の言いたいことを察せなかった私は「そんなふうに、とは?」と聞き返す。

 シェイド様は微かに口角を上げて小首を傾げている私を見つめ返し、少し強引に手首を引いてきた。

「あっ……」

 引き締まった筋肉質の胸にぶつかるようにして収まる私の背と腰に、シェイド様の力強い腕が回る。

 むせかえる薔薇の香りとは別に、彼から発せられている甘さが私から思考を奪い去っていく。頬や重なる身体から伝わってくる体温に酔いしれて抵抗もできないまま、彼の腕の中でじっとしていた。

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