異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「俺はあの場に放り置くわけにはいかないからと、あなたを月光十字軍に同行させたが、危険な目に合わせてしまったことを申し訳なくも思っていたんだ」

 頭頂部に降ってくる声に、私はそっと顔を上げる。真昼の月のように煌く琥珀の瞳の中には、私が映っていた。

「怖い思いをしてきただろうから、もう俺達には関わりたくないと言われてしまうことも覚悟していたんだが、あなたはまったく別のことを考えていたんだな」

 閉じ込めるような抱擁に、僅かな息苦しさを感じた。でも、それが心地いいい。離さないでほしいと、素直に思った。

「俺のために、月光十字軍のためになにかしたい……か。俺はあなたのように慈悲深く、芯の強い女を知らない」

 シェイド様は私のことをいつもかいかぶりすぎだ。彼の前で散々泣いているというのに、どこが強いと言うのだろう。何度も言うが、私は慈悲深いのではない。ただ、目の前で消えようとする命に気づいていながら、傍観していることができないだけなのだ。

「そばにいるだけで、あなたの心の美しさに自分も清められていく気さえする。きっとあなたは、俺たちを救うためにこの世界に降臨した天使なのだろうな」

 彼は軽く握った拳で、私の顎を持ち上げる。親指が顎先にかかり、さらに上向かせられると、シェイド様は飽きずに私の顔を眺めた。なんの保養にもならないのに、物好きな人だと思う。

 どのくらい、そうしていただろう。永遠にも近い時間、見つめ合っていた気がする。

 シェイド様は一度視線を地面に落とすと、意を決したように焦点を私に戻す。

「この国で王宮治療師として学び、ゆくゆくは俺が王となったエヴィテオールで力を貸してくれると嬉しいのだが、構わないだろうか」

 乞われるまでもない、最初からそのつもりだった。

 王子の身で国を追われただけでなく、王位を奪還するために再び戦いの中に身を投じようとしている彼の苦労は図りしえない。一筋縄ではいかない過酷な道を彼が歩むというのなら、足手まといにならない限りついていきたい。それが私の答えだった。

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