異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「もちろんです、シェイド様」

 微笑んで即答すると、シェイド様はなぜか呆れを含んだ息をついた。

「俺の言葉の意味をちゃんとわかっているのか、怪しいものだな。若菜、俺は王になってからも、と言ったんだ」

 ……だから?

 含みを持たせた言い方に、私は首を横に傾ける。私はすでに「もちろん」と答えたはずなのだが、シェイド様はお気に召さなかったのだろうか。それとも見当違いの返事だったのか、ともかく彼の顔には納得いかないと書いてある。

 察しはいいほうだと思っていたのだが、今回ばかりはシェイド様の言いたいことが理解できなかったので、失礼ながら素直に尋ねる。

「すみません、どういう意味ですか?」

「つまりは――」

 シェイド様がなにか言いかけたとき、「ここにいらしたんですね!」と聞き覚えのある声が庭園に響いた。視線を向ければ、アシュリー姫がドレスの裾を摘まんでこちらに走ってくるのが見える。

 その後ろを無造作にセットされた白髪に銀の瞳をした三十代半ばくらいの男性が、かったるそうに歩いてくる。

 第三ボタンくらいまで開けられた黒いシャツからのぞく胸元には小さな小瓶のペンダントが揺れており、中には乾燥した白い小花がいくつも入っていた。

「あーあ、面倒くせぇ」

 シャツと同色のズボンのポケットに片手を突っ込み、よれた白衣を羽織った彼はあくびを噛み殺しながら頭を掻いている。その背には王冠を囲うように草花が描かれているミグナフタ国の紋章が刺繍されていた。

「頼まれていた件、お話しは通しておきましたわ。それでこの方が我が国の王宮治療師長、シルヴィ・ネルラッシャーです」

 アシュリー姫が白髪の男性を手で指す。男性――シルヴィ治療師長は姫から紹介されたというのに「どうも」と興味なさげに答えた。

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