異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「見たところ若くもなさそうですし、取るに足らない恋敵です。心はどうだか知りませんが、身体は手入れをしなければ衰えるものでしてよ」

 吐き捨てるように、私の気にしていた年齢のことを持ち出される。アシュリー姫は私の悩みの種を傷を抉る勢いで掘り返してきた。

「アシュリー姫、言葉が過ぎる」

 咎めるシェイド様だったが、その対応は火に油だ。むやみやたらに正義感を振りかざして庇うと、攻め手はプライドが傷ついて逆上するのが世の常である。

 ほら、とアシュリー姫を見れば、恋する人が他の女を庇ったという事実に顔面の筋肉を痙攣させていた。

「おーい、なにやってんだよ。置いてくぞ」

 随分と遠くにある庭園の入り口から、シルヴィ治療師長が不機嫌そうに声をかけてきた。仕事中であれば苛立ちそうだが、今は神の声にさえ思える。

 張り詰めた空気を断ち切ってくれた治療師長に感謝しつつ、私はアシュリー姫とシェイド様に頭を下げて誤解を解くことにした。

「私はただの治療師ですから、アシュリー姫の考えているようなことはありません。それに姫の言う通り、あなた方から見れば私はおばさんでしょう。その時点で恋愛沙汰になるはずがないので、ご安心ください」

 ふたりは年齢もそう変わらないし、身分も対等だ。私のように地位も後ろ盾もない年増といても、シェイド様にはなんの得もないだろう。できることといえば、治療師としてシェイド様の月光十字軍を支えることくらいなのだ。

「本気でそう思ってるなら、若菜の脳は勉強熱心なせいで凝り固まってしまったようだ」

 ゾワリと背筋が凍るような寒気に襲われて、弾かれるようにシェイド様を見る。そこにある笑顔はどこか乾いており、声も抑揚に乏しい。

 怒りを隠すような愛想笑いに、いっそアシュリー姫を見習って眉を吊り上げるなり、唇を突き出すなりしてくれればいいのにと思う。表情と感情が伴っていない顔ほど、不気味なものはない。

 シェイド様から放たれる圧力に、息巻いていたアシュリー姫も言葉を失っていた。いつも穏やかな彼からは想像できないほどの刺々しい空気に呼吸さえ忘れる。

「鈍い鈍いとは思っていたが、ここまでとは……。あなたはことごとく、俺の予想の範疇を大きく逸脱してくる」

 額に手を当てて頭を振るシェイド様は、嘆かわしげに重い息をついた。そこへまた、空気の読めないシルヴィ治療師長の「さっさとしやがれ」と言う声が飛んできて、頭を抱えたくなった。

 上司に対して失礼だとは重々承知の上だが、シルヴィ治療師長はデリカシーがない上にせっかちだ。

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