異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
シェイドに想いを告げられてから、数日。私は廊下の先に彼の姿を見つけると踵を返して一目散に逃げるか、避けようのない治療師も交えた軍議では極力顔を合わせないようにして俯いていた。完全に子供のする所業だ。
そうやって彼との対面を全力回避する日々を送るうちに、いよいよ近々起こると聞かされていたニドルフ王子率いる王宮騎士団との戦がミグナフタの国境線で行われることとなった。
作戦としては攻め入ってくるニドルフ王子の軍を要塞で待ち受けるというもの。
王宮治療師である私たちも遠征に向かうこととなり、半日かけて要塞に到着すると戦の準備に追われた。
要塞で待ち構えること二日、ついに散々私たちを追い詰めてきた黒い軍服の集団が現れる。太陽と剣の刺繍が施されている赤の旗を掲げて、騎兵が高らかに全面降伏を要求してきたが、当然シェイドもミグナフタの軍事司令官も首を縦には振らない。
そもそも降伏したところで月光十字軍は反逆罪にて処刑、ミグナフタ国も植民地化されるのは目に見えている。承諾するわけがないのにあえて降伏を促したのはニドルフ王子の慈悲ではなく、自軍の勝利を見越したゆえの侮辱だ。
城から要塞に向かう途中でアスナさんから聞いたのだが、王宮騎士団は三万の騎士と騎士見習いのエクスワイヤで編成されているらしい。
対する私たちは月光十字軍が五千二十人、ミグナフタ国の兵が一万五千。私も今まで知らなかったのだが、月光十字軍の兵は騎士であるアスナさんとローズさんを主人と仰いで仕えているエクスワイヤなのだとか。ゆえに月光十字軍ひとりひとりの剣術の能力は高い。
しかし、ミグナフタ国の兵のほとんどは戦争慣れしていない。軍事司令官率いる一部の兵は国同士の戦争も経験しているのだが、他の兵は内戦の経験しかないのだとか。
戦の場数を踏んできた兵は皆高齢で世代交代したばかりらしく、新参の兵にシェイドも指南していたのだが、時間が少なすぎた。
私たちは数や能力値からしても不利で、戦力に圧倒的な差があるのだ。
「戦力を補うために要塞に立て籠もって籠城戦とは、シェイド王子は頭が切れる。ここは戦闘には向いていないが、守備には適してるからな」
開戦から数時間、私は治療室で運ばれてきた負傷兵の手当てにあたりながらシルヴィ治療師長の話に耳を傾けていた。