異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「それも完全な籠城じゃなく、負傷した兵や疲労の溜まった兵を要塞に戻して休ませ、傷が癒えたら前線に出ていた兵と交代する。兵は万全とはいかなくても、体力を温存して戦えるからな。対する王宮騎士団は食料も体力も減って行く一方だ。シェイド様は長期戦に持ち込む気なんだろう」
ここからでは外の戦況はわからないけれど、どんな作戦でもシェイドや皆が全員無事に帰ってきてくれればそれでいい。そのために、私もこの場所で戦うのだと自分を奮い立たせて処置に専念した。
それから戦が続くこと四日目、真紅の千切れ雲が空に流れている夕方のこと。戦況は徐々にこちらが優勢となり、それはシェイドの策が功を成したことを意味していた。
「王宮騎士団を追いつめるために敵陣に踏み込んだシェイド様の部隊が、敵陣に取り残された。怪我人をここまで運べないとかで、治療師を寄越すように要請があったんだが――」
「私が行きます」
部屋に飛び込んできた伝令役の兵の言葉を遮る。目の前の負傷兵の手当てを終えた私は、必要最低限の道具と薬草を救急箱に詰めて持った。
「そんなっ、若菜さん危険です!」
駆け寄ってきたマルクが、私の腕を掴んで引き留めた。
「マルク、危険なのは誰が言っても一緒よ」
「それでもっ……なら、僕も一緒に行きます!」
目尻に涙を溜めているマルクに、私は苦笑いをして短く息を吐く。マルクとはこの世界に来てから、なんだかんだ長い付き合いだ。おどおどしていつも慌てている彼だけれど、誰よりも熱心で治療師として信頼している。だからこそ、私はあえてきつい言葉をかけた。
「あなたのするべきことはここに残って多くの負傷兵を救うこと、私を救うことじゃない。私はちゃんと帰ってくるし、シェイド様たちのことも死なせないから……」
私の腕を掴むマルクの手に自分の手を重ねると、震えているのに気づいた。私を心配してくれているのがわかり、自然と顔がほころぶ。
「信じて」
「若菜さん……」
泣きながら、マルクは静かに手を放す。
安心させるように微笑むと、それ以上マルクはなにも言わなかった。手の甲で乱暴に目元を拭い、ぎこちなく口角を上げてくれる。
マルクと顔を見合わせていると、ふいに肩を掴まれて後ろに引かれた。よろけて一歩後ずさると、背中に誰かの胸板があたる。振り返ると、お前は馬鹿かと言いたげに半目でこちらを見下ろす男の姿があった。
ここからでは外の戦況はわからないけれど、どんな作戦でもシェイドや皆が全員無事に帰ってきてくれればそれでいい。そのために、私もこの場所で戦うのだと自分を奮い立たせて処置に専念した。
それから戦が続くこと四日目、真紅の千切れ雲が空に流れている夕方のこと。戦況は徐々にこちらが優勢となり、それはシェイドの策が功を成したことを意味していた。
「王宮騎士団を追いつめるために敵陣に踏み込んだシェイド様の部隊が、敵陣に取り残された。怪我人をここまで運べないとかで、治療師を寄越すように要請があったんだが――」
「私が行きます」
部屋に飛び込んできた伝令役の兵の言葉を遮る。目の前の負傷兵の手当てを終えた私は、必要最低限の道具と薬草を救急箱に詰めて持った。
「そんなっ、若菜さん危険です!」
駆け寄ってきたマルクが、私の腕を掴んで引き留めた。
「マルク、危険なのは誰が言っても一緒よ」
「それでもっ……なら、僕も一緒に行きます!」
目尻に涙を溜めているマルクに、私は苦笑いをして短く息を吐く。マルクとはこの世界に来てから、なんだかんだ長い付き合いだ。おどおどしていつも慌てている彼だけれど、誰よりも熱心で治療師として信頼している。だからこそ、私はあえてきつい言葉をかけた。
「あなたのするべきことはここに残って多くの負傷兵を救うこと、私を救うことじゃない。私はちゃんと帰ってくるし、シェイド様たちのことも死なせないから……」
私の腕を掴むマルクの手に自分の手を重ねると、震えているのに気づいた。私を心配してくれているのがわかり、自然と顔がほころぶ。
「信じて」
「若菜さん……」
泣きながら、マルクは静かに手を放す。
安心させるように微笑むと、それ以上マルクはなにも言わなかった。手の甲で乱暴に目元を拭い、ぎこちなく口角を上げてくれる。
マルクと顔を見合わせていると、ふいに肩を掴まれて後ろに引かれた。よろけて一歩後ずさると、背中に誰かの胸板があたる。振り返ると、お前は馬鹿かと言いたげに半目でこちらを見下ろす男の姿があった。