異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「怖い思いをさせたな」

 シェイドの視線が私に向けられたので、大きく首を横に振る。

「いいえ、いいえ……っ、迎えに来てくれてありがとう……っ」

 彼の柔らかい朧月のような眼差しを見た途端に、敵前だからと張っていた虚勢は崩れ去った。

 シェイドは泣いている子供をあやすような口調で声をかけてくる。

「あなたのことを守ると言っただろう。すぐに助けるから、安心して待っているといい」

「はい……」 

 素直に頷くと、シェイドは満足げに目を細めて視線をダガロフさんに戻す。その瞬間にその場の空気が一度下がった気がした。

 シェイドは一見穏やかに見えるが、怒りを堪えているのか、冷ややかな目で王宮騎士団の連中を見渡す。その視線が自分に向けられた者は悲鳴すら上げられずに腰を抜かし、青白い顔でエヴィテオールの第二王子を見上げていた。まともに立っているのは騎士団長のダガロフさんだけだ。

「俺はお前にも負ける気はないぞ、ダガロフ」

 静かに腰のサーベルを抜き放ち、シェイドはもう片方の手を軽く刃に添える。

「俺の命よりも大事な女を攫おうとした罪は重い。よって、お前を懲らしめることとする。それから、俺は仲間が道を外れたときは力づくでも正しき道に連れ戻すぞ」

 シェイドの言う仲間とは、ダガロフさんのことだろう。その言葉の意味がダガロフさんにも伝わったのか、一瞬目を見張る。それでもあとには引けないと思ったのか、迷いと決別するように瞼を閉じ、一拍置いて背負っていた太い円錐状の槍を構えた。持ち手が棒のようになっている大ぶりの槍は、ダガロフさんの身体と同じくらいある。

「じゃあこのアスナ・グランノール、若菜ちゃんの救出を担当しまーす」

「ならあたしは、あの男どもを全員頂いちゃってもいいってわけね」

 舌なめずりするローズさんに「お好きにどうぞ」と言って、アスナさんは腕を交差するように腰に差さっている二本の剣の柄を握る。

「若菜のこと、任せたぞアスナ」

「王子の仰せのままに――ってね!」

 風のような速さで地面を蹴ったアスナさんは、私を羽交い絞めにしている伝令役の兵とあっという間に距離を詰める。軽やかな身のこなしで兵の背後に回り込むと、流れるような仕草で剣を交差に抜き放った。

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