異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「ぐあああっ」

 悲鳴を上げて地面に倒れた伝令役の兵は背中を浅くバツ印を描くように斬られており、痛みに悶えている。それを見下ろして、アスナさんはため息をついた。

「きみにはどうやってうちの陣地に潜入したのか、たっぷり尋問するからね」

 にっこりとして恐ろしいことを口走るアスナさんは、どうやら怒っているらしい。目がまったく笑っていなかった。

「うちの仲間を誘拐したんだから、覚悟しといてね」

「アスナさん……」

「これで若菜ちゃんが無事じゃなかったら、本気で斬ってたかもね」

 本気とも冗談ともとれる言い方で、アスナさんはせっせと伝令役の兵を縄で縛りあげる。そのまま地面に転がして、私を背に庇うように双剣を構えた。

「ローズ、加勢は必要?」

 黒い軍服の男たちを舞うようにレイピアで倒していくローズさんは、長い前髪を掻き上げながらチラリとこちらを振り返ると妖艶に微笑む。

「不要よ」

 それだけ言って、指揮棒のようにレイピアを振る。

 シェイドはというと、ダガロフさんの槍をサーベルで流すように受け止めていた。お互いに隙を与えないほど、剣を繰り出している。

「迷いが剣に出ているぞ、ダガロフ」

 次第にシェイドは反撃のいとまを与えることなく、銀の閃光を放つように剣を振り下ろした。それはダガロフさんの左目を掠る。

「ぐっ、うっ……」

 血が流れる左目をおさえて後ずさり、地面に膝をつくダガロフさんに他の王宮騎士団の騎士たちは敗戦を悟ってみっともなく逃げ出す。その場には意識を失って地面に突っ伏している伝令役の兵と騎士の数名、それからダガロフさんだけとなった。 

「――殺して、ください」

 ダガロフさんは苦しげにシェイドを見上げて、短く懇願する。そんなダガロフさんに近づいて、シェイドは剣先を向けた。

「その目と共に、盲目だったお前は死んだ」

「シェイド王子、それはどういう……」

「お前が迷っていたのは、正義がこちらにあるとわかっていたからだろう」

 そのひと言に目を見張るダガロフさんの反応を見て、シェイドの言葉が的を射ていたことは明白だった。

 ダガロフさんの心を見透かしたシェイドの声が、再び静寂の訪れた空間に響く。

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