異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「ニドルフ王子への恩義と騎士としての正義を天秤にかけていたのだろうが、今ここで恩義のために道を踏み外そうとしているお前は死んだ。これからは俺とともに国のため、そこで生きる民のため、真の騎士となり忠義を尽くせ」

 それは神の言葉のように威厳を放ち、心の奥底にまで届く。この場にいた誰もが彼の気高さにあてられていた。

 見入るようにシェイドの顔へ視線を注いでいたダガロフさんは、静かに目を閉じて唇を動かす。

「やはり、あなたは王の器にふさわしい。あなたに仕えられたなら、俺は真の騎士となれたのでしょう。だからこそ、俺にはあなたのそばにいる資格がない」

 自嘲的な笑みをこぼして項垂れたダガロフさんは地面に手をつくと、なにかを悔いるように土ごと拳を握る。 

「国より民より、俺はあの方を選んだ。その時点で俺は騎士ではなく、ただの賊と同じだったのです。ですから、ここで捨て置い……ぐうっ」

 傷ついた左目を強くおさえて、ダガロフさんは蹲る。

 シェイドは剣を鞘に戻してダガロフさんのそばにしゃがみ込み、その背に手を添えながら私を振り返った。

「若菜、手当てを頼む」

 そう言われる前に、私は駆け寄っていた。ダガロフさんの前に腰を下ろし、手首を掴んで目から外させる。その目は土のついた手でおさえたために汚れていた。

「これでは不衛生だし感染の恐れもあるわ。とにもかくにも、洗浄しないことには手当てができない。ダガロフさんを治療室に連れて行きましょう」

 私では大柄な彼を担いではいけないので、助力を乞うようにシェイドを見る。するとシェイドは頷いて、ダガロフさんの脇の下に腕を差し込んだ。

「アスナさん、ローズさんも手伝って……くだ、さい?」

 最後に疑問符がついてしまったのは、シェイドが軽々とダガロフさんを抱えたからだ。筋肉で引き締まっているとはいえ、細い身体のどこにその力があるんだか。

 私は一瞬あっけにとられて、それどころではなかったと我に返る。

「団長のことだけど、運ぶなら治療室じゃないほうがいいわ」

 ダガロフさんを連れて砦に戻っていると、ローズさんが難しい顔でそう言った。なぜかと問う前に、アスナさんが口を開く。

「ダガロフ団長は敵軍の総大将みたいなものだからね。別室に運んで、事情を説明するまでは匿う必要がある」

 なるほど、確かにアスナさんの言うとおりだ。月光十字軍やミグナフタ国の兵の中には、ダガロフさんや王宮騎士団に仲間を殺されてしまった者もいる。快く受け入れてもらえるなんて、そんな生易しい状況ではないのだ。

「では、治療は私がひとりで担当しますね」

 迷わず言えば、シェイドがふっと笑う。

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