異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「あれから三日も眠り続けてるのか」

 寝台に近づきながら尋ねるシェイドに、私は「ええ」と答えた。

 そう、ダガロフさんは負傷した日から一度も目覚めていない。もうとっくに起きてもいいはずなのに、規則正しい寝息を立てて固く目を閉じているのだ。

 シェイドの隣に立って、ダガロフさんの寝顔を見つめる。

 思い出すのは、ダガロフさんが殺してほしいと言ったときのことだ。

「現実に戻りたくないから、まだ眠りの世界にいるのかもしれないわね」

 ポツリと呟くと、頬にシェイドの視線を感じた。それでも私は、ダガロフさんに視線を注いだまま続ける。

「ダガロフさんは自分を騎士にしてくれたニドルフ王子に恩はあると思うけど、最初からニドルフ王子に仕えるつもりで騎士になろうと思ったわけじゃない。別に理由があるはずよ」

 だって、騎士を目指したときにニドルフ王子との面識はなかったはずだから。これは憶測だけど、彼は命と同じくらい大切にしている騎士である自分を失ったことで心が折れてしまったのではないだろうか。

 看護師は病だけでなく、ときにはその人の生活背景から精神的にどのようなストレスを抱えているのかをアセスメントする。日々の激務で優先度は下げられてしまっているが、むしろそれが一番大事だ。

「騎士になりたいっていう強い思いがあったから、農民だと言われても頑張れたんだと思う。でも、シェイドの言葉で自分が騎士の道から外れてしまったことに気づいたとしたら?」

 腑に落ちた顔でシェイドは「そういうことか」と苦々しく呟く。

「ダガロフは騎士であることに誰よりも誇りを持っている。きっと、自分の芯を失った気持ちだったのだろうな」

 私が看護師でなくなったら、なにが残るのだろう。看護師になるために勉強をして、多くの命と向き合ってきた自分。それらすべてを失くしたら、私はきっと空っぽな人間になる。空虚な思いを抱えて生きていくのは苦しいから、なにもない世界で目覚めたくないと思う気持ちは理解できた。

< 76 / 176 >

この作品をシェア

pagetop