異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「……傷の具合はどうだ?」
ふいにシェイドが話題を変える。張りつめていた空気が柔らかくなって、私はシェイドのほうを向いた。
「そうね、今ダガロフさんに必要なのは目を守って、汚れを洗い流してくれる涙なの。でも、精神的なダメージとか、戦の興奮が続くと涙の分泌を抑える交感神経が出ちゃうから、当分は心のケアが必要ね」
潰瘍が治るには数日、もしくは半年以上かかる。幅が広いのは、ダガロフさんの心の状態次第だからだ。
「朝食も用意したんだけど、今日も食べられなさそうね」
円卓に置かれた食事に視線を向けると、私は肩を落とした。
「つきっきりで看病をして、若菜も朝食を食べてないんじゃないか?」
円卓の上にあるのは、食事が乗ったふたつのトレイ。それを見たシェイドは気遣うように私の顔をのぞき込んだ。
「心なしか、目の下にくまが見える。まさか、夜も寝ないで看病しているのか?」
「えっと……ダガロフさん、夜にうなされているのよ。だから、手を握ってあげたくて」
「忘れていた。あなたは自分よりも他人を優先させる人だったな」
額に手を当ててため息をこぼしたシェイドは、こちらに手を伸ばす。指先が私の頬に触れそうになったっとき、その動きがピタリと止まった。
「すまない、俺に触られるのは迷惑だろう」
「え?」
なんのことだと目を瞬かせて、すぐに薔薇園での出来事を思い出す。戦の前、私はシェイドに告白まがいのことを言われ、抱きしめられた。でも、元いた世界のこと、身分差、年齢差。あげたらきりがないほど、私には彼を受け入れる資格がないのだと思い知って逃げ出したのだ。
なのにシェイドは私がダガロフさんに攫われそうになったとき、危険を承知で助けに来てくれた。
あとで知った話だが、私が伝令役の兵と姿を消したと聞いて、シェイドはアスナさんとローズさんの制止も聞かずに単身で乗り込もうとしていたのだとか。
「迷惑、とかではないのよ。その、助けに来てくれたこともうれしかったわ。でも、私はあなたに同じ気持ちを返してあげられない」
――というより、返してはいけないんだわ。
自分でいったくせに、胸はワガママにもチクリと痛む。
シェイドは身分も年齢も相応の女性と結ばれるべきだし、私にも帰らなければいけない世界があるから、引き返せなくなる前にこの思いに蓋をすることを決めた。
だから友人でいてほしいと言おう思ったのだが、私が口を開く前にシェイドに手を握られる。
ふいにシェイドが話題を変える。張りつめていた空気が柔らかくなって、私はシェイドのほうを向いた。
「そうね、今ダガロフさんに必要なのは目を守って、汚れを洗い流してくれる涙なの。でも、精神的なダメージとか、戦の興奮が続くと涙の分泌を抑える交感神経が出ちゃうから、当分は心のケアが必要ね」
潰瘍が治るには数日、もしくは半年以上かかる。幅が広いのは、ダガロフさんの心の状態次第だからだ。
「朝食も用意したんだけど、今日も食べられなさそうね」
円卓に置かれた食事に視線を向けると、私は肩を落とした。
「つきっきりで看病をして、若菜も朝食を食べてないんじゃないか?」
円卓の上にあるのは、食事が乗ったふたつのトレイ。それを見たシェイドは気遣うように私の顔をのぞき込んだ。
「心なしか、目の下にくまが見える。まさか、夜も寝ないで看病しているのか?」
「えっと……ダガロフさん、夜にうなされているのよ。だから、手を握ってあげたくて」
「忘れていた。あなたは自分よりも他人を優先させる人だったな」
額に手を当ててため息をこぼしたシェイドは、こちらに手を伸ばす。指先が私の頬に触れそうになったっとき、その動きがピタリと止まった。
「すまない、俺に触られるのは迷惑だろう」
「え?」
なんのことだと目を瞬かせて、すぐに薔薇園での出来事を思い出す。戦の前、私はシェイドに告白まがいのことを言われ、抱きしめられた。でも、元いた世界のこと、身分差、年齢差。あげたらきりがないほど、私には彼を受け入れる資格がないのだと思い知って逃げ出したのだ。
なのにシェイドは私がダガロフさんに攫われそうになったとき、危険を承知で助けに来てくれた。
あとで知った話だが、私が伝令役の兵と姿を消したと聞いて、シェイドはアスナさんとローズさんの制止も聞かずに単身で乗り込もうとしていたのだとか。
「迷惑、とかではないのよ。その、助けに来てくれたこともうれしかったわ。でも、私はあなたに同じ気持ちを返してあげられない」
――というより、返してはいけないんだわ。
自分でいったくせに、胸はワガママにもチクリと痛む。
シェイドは身分も年齢も相応の女性と結ばれるべきだし、私にも帰らなければいけない世界があるから、引き返せなくなる前にこの思いに蓋をすることを決めた。
だから友人でいてほしいと言おう思ったのだが、私が口を開く前にシェイドに手を握られる。