異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「あの日、あなたの背中を追いかけなかったことを物凄く後悔した。だから決めたんだ。迷惑でないのなら、俺はあなたを諦めない」

「シェイド、それだとあなたが辛いだけだわ」

 私も気持ちを伝えてくれたあなたから、逃げたことを後悔している。本当はあの場に留まりたかったから。

 ただ、保身的な私にはシェイドとの不確かな未来を選ぶ勇気はなかった。この手を握り返すこともできない私のことなど、早く忘れたほうが傷つかずに済むのに。どうしてシェイドは諦めてくれないのだろう。

 じわりと涙が滲んで視界が歪む。唇を噛んで俯けば、彼の両手に顔を上げさせられ、目元を拭われた。

「勘違いしないでほしい。俺は勝手に諦めないだけだ。あなたが気に病むことはない」

「もう、シェイドは優しすぎるわ」

 辛い思いをさせている自覚があるから、なおさら彼の気遣いが身に染みる。

 勝手に諦めただけ、なんて……。

 私が気にしているのに気づいたから、わざと自分に非があるような物言いをしたのだろう。

 情けない顔をしているだろう私をシェイドは愛しそうに見つめてくる。

 薔薇園で告白されたときは疲れているせいにしたけれど、もう誤魔化せない。彼は本当に私を想ってくれているのだ。

 シェイドの気持ちを身に染みて感じていると、寝台のほうから「んうっ」と声が聞こえて、ふたりで同時にダガロフさんを見る。

「ここ、は……」

 視点が定まらない様子で、掠れた声をもらしたダガロフさん。私はシェイドとともに駆け寄り、彼が目を開けていることに心底安堵した。

「あなたは目を怪我してから三日間、眠り続けていたのよ」

「お前は……」

 警戒するように身を固くするダガロフさんに、私は改めて自己紹介する。

「私は若菜です」

「ああ、治療師だったな」

 覚えていたのか、ダガロフさんは納得したふうに軽く頷いた。

 うなされているか、痛みに悶えるように左目を掻き毟る姿しか見ていなかったので、彼が苦しむことなく話せていることがうれしかった。

 改めて彼が無事であったことを喜んでいると、天井を彷徨っていたダガロフさんの視線がある一点で止まる。

「シェイド王子……そうですか、ここは月光十字軍の陣地なのですね。王宮騎士団はどうなったのでしょうか」

 ダガロフさんの目線の先には、シェイドがいた。

 目覚めてすぐに戦況を知りたがるなんて、と私はため息をつく。もっと生還したことを実感じてほしいものだが、騎士や兵には自分の身よりも大事なものがあるのだ。

< 78 / 176 >

この作品をシェア

pagetop