異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「王宮騎士団は撤退した。お前の身柄は俺が預かったから、しっかり滋養になるものを食べて心身ともにを癒せ」

「シェイド王子、俺のことをなぜ殺してくださらなかったのです。今の俺は生きていることこそが苦痛だというのに」

 横になったままかけ布団を握りしめ、胸の内に渦巻く憤りを静かに吐き出すように死ねなかったことを嘆くダガロフさん。

 私は命に勝るものはないと思っているのだが、この世界ではその価値観はほとんど通用しない。だから、私がどんなにダガロフさんに生きろと言っても届かないのかもしれないけれど――。

「あなたは死んで、なにがしたいんですか」

 気づいたら、責めるような言葉が口をついていた。

 自決するならまだしも、殺してほしいなんて自分本位にもほどがある。殺す側――シェイドは一生、ダガロフさんを手にかけたことを背負って生きていかなければならない。

「騎士としての俺は死に、あの方を敗戦に追いやったのも俺だ。価値などないとは思うが、この命で償うしかない」

 ゴールドの瞳の中に絶望の色がうつる。

 生きたいと願っても生きられない人がいるから、私はミトさんに生かされた者だから、自分の命をないがしろにすることはできない。しようとも思わない。

 生まれてから今まで健康体だった私は、医療従事者として救う側にいる。だからこそ、言わせてもらおう。

「死んだからって、罪は消えません。ダガロフさんは楽になりたいだけです。償うというのは、生きて責任を取ることを言うんですよ」

 ダガロフさんはシェイドやアスナさん、ローズさん。そして、私に生かされた人間だ。誰かの生きてほしいという思いに救われた命は、もう個人のものだけではなくなる。

「こっちが必死に助けた命を、簡単に手放さないで!」

 私が叫ぶとダガロフさんは目を白黒させて、シェイドは満足そうに笑みを浮かべていた。

 声の限り、シェイドや彼を団長と慕う騎士たちが抱いているだろう思いをぶつけたつもりだ。今理解してもらえなくても、これから毎日耳がタコになるまで伝える。

「若菜は食事もとらず、まともに寝ずに、お前の看病をしていた」

「……そういえば、ぼんやりとだが誰かが手を握っていてくれたのを覚えている」

 戸惑いを含んだダガロフさんの眼差しが私に注がれ、肯定するように頷く。すると彼は自分の手のひらをじっと見つめた。

 シェイドは声を荒げてしまった私とは反対に、ダガロフさんを優しく諭す。

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