異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「そんな彼女が繋ぎとめようとした命を勝手に捨てるなど、義を重んじる騎士はしてはならない」

「俺はもう、騎士では……」

「戻れないと決めつけているのはダガロフ、お前自身だ」

 短くも胸に切り込むような鋭いひと言を浴びせられたダガロフさんは、核心をつかれたのだろう。弾かれるように顔を上げて、手のひらからシェイドへ視線を移す。

「道を違ったのなら、もう一度正しき道を歩み責任をとれ。その責任こそ、騎士となることで果たせると俺は思う」

 それだけ言って、シェイドは踵を返す。こちらを振り返ることなく、「若菜、あとは頼む」と言って部屋を出て行ってしまった。

 私はダガロフさんとふたりきりになり、とりあえず寝台の横に椅子を置いて座る。

 目覚めてから怒涛のように生きろと言われて、疲れてしまったのではないか。カッとなって矢継ぎ早に喋ってしまい、彼の体調を気遣えていなかったことを反省する。

 シェイドが消えた扉をじっと見つめているダガロフさんの顔色を窺いつつ、私は思い切って声をかけた。

「あの、目の調子はどうですか?」

「あ、ああ……。左目がぼやけて、なにも見えない」

 声をかけられて我に返ったらしいダガロフさんの答えに、やっぱりかと思う。角膜穿孔には至っていないとはいえ、剣で傷つけられれば傷も広く深い。

「見えないのは不安ですよね。でも、あなたの場合は角膜に完全に穴が開いたわけではないから回復の見込みがあります。どれだけ時間がかかっても、一緒に戦っていきましょう」

 にっこりと笑いかけると、ダガロフさんはなにか言いたげな顔をした。まだ、自分から前向きな言葉を発するのは躊躇われるのだろう。きっと、消化できない葛藤が彼の中にはあるのだ。それが表情から感じ取れたので、気づかないふりをして明るく声をかける。

「涙の油分には青魚、傷を回復させるのに必要なのはヨーグルトやチーズに含まれるたんぱく質なんですよ」

 黙ったまま私の話を聞いているダガロフさんの背を支えて、上半身を起こす。そして円卓に置いていたトレイを手に取り、彼の膝の上に乗せた。

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