異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「その申し出自体が無茶なんだが、俺がダメだと言っても聞かないんだろう?」

「ごめんなさい。でも、エグドラの町の人は今も心細い思いをして助けを待っているはずだわ。早く行ってあげないと」

気遣いが滲んだ彼の瞳を安心させるように強く見つめ返す。引き止めたいはずなのに、私の意思を尊重してくれたことに心の中で深く感謝した。

「安心してくださいよ、王子」

「僕たちも一緒に行きますから!」

 私の隣に並び、シルヴィ治療師長とマルクもエグドラの町に赴くことを賛同してくれる。ふたりがついて来てくれるなら心強い。

 無茶はしないと言っても、相手は謎の感染症。ましてやこの世界に十分な治療薬も予防薬もないので、うっかり自分が感染でもしたら数日で宿主の命を奪うほどの病原体だ。治療どころではなくなる。

 気を引き締めなければと背筋を伸ばしたとき、シェイドは私たち治療師の顔ぶれを見て神妙に頷く。

「わかった。でも定期的に報告をあげてくれ。なにかあれば、すぐに救助に向かう」

 彼に背を預けて行くのだ。大船に乗ったつもりで、治療することだけに専念しようと自分を鼓舞していたら「話はまとまったようですな」とバルトン政務官が声を挟んでくる。

「では、頼んだぞ」

 バルトン政務官のひと言で、私たちは執務室を出た。成行きで皆で肩を並べて廊下を歩いていると、ふいにシェイドが口を開く。

「護衛にダガロフをつけよう」

「え、でも……できるだけ感染地域に行く人間は少ないほうがいいですよ。治療師ならわかりますが……」

「危険な場所にあなたたちを送るんだ。不測の事態に備えて守り支援するのは当然だろう」

 それくらいさせてくれ、とでも言うように眉尻を下げながら微笑むシェイド。そこまで私たちを思ってくれる上司――とは違うか。彼の元で働けることを名誉に思った。

「まあ、感染症とは関係なく危険な匂いがプンプンしやがるからな、この仕事」

 不愉快極まりないといった顔でシルヴィ治療師長は胸元の小瓶の蓋をキュポンッと開ける。その香りを嗅ぐと、ほうっと息をついた。

 それを見ていたマルクは不思議そうに小瓶の中の白い花を指さす。

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