むかつく後輩に脅されています。
 彼は慌てて私の手を退けた。

「何してるんすか」
「……漫画のこと知られたくないの、誰にも」
「なんかあったんすか?」

 相楽はそう尋ねたあと、くん、と匂いを嗅いだ。すっ、と目を細める。

「……タバコの匂いがしますね」

 私はぎくりとした。相楽が低い声を出す。

「先輩、タバコ吸いませんよね? 誰と会ってたの? さっきの男?」
「あなたに、関係ないでしょう」

 相楽がじりじりと近づいてくる。後ずさりした私の背中が壁についた。

「キスしてください」
「……嫌よ」
「なんで? 約束したじゃないですか。三カ月、彼女やるって」

 相楽が私の頰に手を添えた。彼の唇が近づいてくる。私はびくりとして、顔をそらす。相楽が唇を止めた。かすれた声で尋ねる。

「俺のこと、嫌い?」
「……嫌いよ」

 するりと頰から手が離れた。

「……画像、消しといてください。携帯の中にしかないんで」

 私にスマホを渡して、相楽が会議室を出ていく。バタン、と閉まったドアの音に、私は身体を震わせた。


 その夜、帰宅した私は相楽のスマホを手にしていた。

「……」

 画像を全て消去してやったのに、なぜかもやもやする。あいつ、スマホがなくて困ってるんじゃないだろうか。
 そう思っていたら、相楽のスマホが鳴り響いた。私はびくりとして、震えるスマホに目をやる。
 え、どうしよう。勝手に出るのはためらわれた。でも、重要な要件だったら困るだろうし。私は迷った末に、電話に出た。

「はい、相楽義明の携帯です」
「あれ? 女が出た」

 聞き覚えのない声がした。

「もしかして、ゆり先輩さん?」
「え……はい」

 先輩さんという独特の呼び方が引っかかる。

「あの、俺、相楽のダチなんすけど、あいつめちゃくちゃ酔ってて。なんかあったのかなって」

 通話口から賑やかな音が聞こえている。どうやら彼は、飲み屋にいるようだ。
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