むかつく後輩に脅されています。
 相楽がこちらを見上げた。酔っているせいで、瞳が潤んでいる。

「たまたま同じ喫茶店で会って。たまに話すようになって。同じ会社だってわかって……」

 ──俺と、付き合ってくれませんか。
 三井はそう言った。だけど私はすぐに頷けなかった。BL漫画を描いていることを、告げるのはためらわれた。

「ある日、喫茶店に原稿を忘れたの。三井さんは書類だと思ったんでしょう。多分、中身を見た」
「……それで?」
「彼は喫茶店に来なくなった。そのかわり別の店で、受付の子と一緒に食事してるのを見たわ」
「ひっでえ男」
「私のことを、べつに好きじゃなかったんだと思う」

 彼からしたら、私は付き合ってもいいかな、程度の女だったのだ。でも、私は『奇妙な』趣味を持つ女だった。それで、何人かいた交際候補から脱落したに過ぎない。私は勝手に悩んで、勝手に傷ついた。彼の考えを見抜けなかった。経験がないからだ。情けない。

 相楽がむっとした顔でこちらを見ているので、どうしたの、と尋ねた。

「先輩は、あいつのこと好きだったんでしょ」
「……初めてだったから。男のひとと、一緒にいてドキドキしたの」
「すごいむかつく。俺のほうが、先輩のこと好きなのに」
「脅したくせに」
「だって先輩、俺がくどいても無視するし」
「口説かれたことなんかないわよ」
「飯とか誘っても、他のやつ連れてくるし。美人ですね、って言ってもスルーだし」

 あれは口説かれていたのか。

「あなたが言うと軽いのよ、全てが」
「どうすればいいですか」

 相楽がすがるような目でこっちを見る。

「先輩にふさわしい男になりたい」
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