古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
それでも、二年ぶりにようやく帰ってきたのだから祖父のお仏壇にお参りがてら挨拶に行けという母の言い分ももっともで、私は気が進まないながら沙代里ちゃんと一緒に明日、祖母のもとにお茶のお稽古に行くことを約束させられてしまった。


母はとたんにうきうきとした様子で、奥の和室から畳紙の包みをいくつも出してきた。

「やっぱり今の季節は絽か紗やろね。小紋もいくつか誂えたはずだけどこの子ったらちいとも着ようとせんのやから。下手をしたら成人式以来やないの」

「あら。私たちの結婚式に素敵なお着物で来てくれはったやないですか」

「ああ。あれな。せっかくの晴れの場やからって張り切って京友禅こさえたったのにこの子ったら歩き方やら立ち居振る舞いががさつっちゅうか不細工でねえ。目立つ着物着せたのがかえって恥ずかしかったわ」

……べつに私が着せてくれって頼んだわけじゃないのに。

むすっとして黙り込んでいる私をよそに、母と沙代里ちゃんは着物がこれなら帯はこれ。帯揚げは、帯締めは……半襟の色はこっちでと楽しそうに話している。

「だいたい、いい年齢して浴衣も自分で着られへんいうのからしておかしいわ。ちょうどええから、これからお祖母ちゃんのところにしばらく通うて、着付けから何から一通り教えて貰いなさい」

「はいはい」

「返事は一回やろ。まったくいつまでも中学生みたいな話し方して。考えてみたらあんたがこっちに帰ってきたのも良い機会かもしれんな。仕事を辞めたんやったらしばらくはそういうお稽古に励んでみたらどうや?」


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