古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
「辞めたって……別にこっちで仕事探して働くわよ。お見合いなんかする気ないんだから」

「仕事って何するの? また百貨店の売り子さん?」
「私がしてたのは売り子じゃなくて外商部」

「何だってええわ。どっちにしてもあんた一生独りでおる気はないんやろ。だったら最低限のことは身につけておかな。そもそもあんたお料理とか出来るん?」

「出来るわよ。むこうではちゃんと自炊してたんだからっ」

「ふうん。せいぜい、スマホでクックパッドやら見てパスタやらグラタンやら作るくらいだったんやないの?」

……うっ。
なんで分かるのよ。

言葉につまった私を見て母は大袈裟にため息をついた。

「学校出たばかりの若いお嬢さんならともかくあんたくらいの年齢の娘がろくに料理もつくれん、家事も出来ん、お茶もお花も心得ない、着物も一人で着られへんじゃお見合いさせたくても出来へんわ。みっとものうて」

「ほっといてよ。別にお見合いなんかしたくないから!」

「しないならしないで結構。仕事も探すなら探しなさい。でもこっちにおる間にせめて料理と着付けくらいは身につけて貰いますからね」」

そんなわけで、私は母に言われるままにしばらく職探しをしながら母の知り合いがやっているクッキングスクールに通い、祖母のもとで着付けからお茶、お花などのお稽古を受けることになってしまったのだった。



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