古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
「今朝、店の前で会うた子おったやろ?」
「ああ、うん。塾の友達だったっていってた子?」

「うん。浅岡奈月ちゃん。ずっと中受のクラスで一緒だった」
「中学受験の?」

 佐保ちゃんの通っている私立中学には当然ながら入学試験がある。

 私自身は地元の公立中学に進んだので詳しくは分からないけれど、中学受験をする子はその為の専門の塾に通うのだということは知っていた。

 最近では難関校と呼ばれる学校を受験する子は小学校四年生──正確には三年生の二月から準備を始めるらしい。

 六年生になる頃から受験組の子は、放課後同じ小学校の子と遊ぶ時間がなくなる。部活動や地域の行事などにも参加出来なくなってくる。

 その分、同じ塾で同じ目標に向かって努力している友達との繋がりが強くなる。
 佐保ちゃんと奈月ちゃんもそういう仲だった。模試の前には塾の自習室や図書館で一緒に勉強したりもしたし、夏休みには互いの家にお泊りをしあって「合宿」をしたりもしたらしい。

 でも朝、店の前で会った時、「同じ学校の子?」という私の質問に佐保ちゃんは「ううん」と首を横に振った。

「……奈月ちゃんの志望校って」
「うちと同じ若草山。……奈っちゃん。受からなかってん」

 佐保はぽつりと言った。

 受験仲間というのはそういう時微妙だ。二人とも合格、もしくはふたり揃って不合格だった場合はいいが、こうして明暗が分かれてしまった時に今まで通りの関係を続けていくのが難しくなる。

「合格発表の日、奈っちゃん。うちに『おめでとう』って言ってくれてん。そんで、『しょうがないから高校で佐保ちゃんと一緒にれるようにまた三年間頑張るわ!』って言うてくれとったのに。それからメールもLINEも返事来んようになって。電話しても繋がらんくて……」

「まあ、そら向こうにしてみたら受かってのほほんとしとるお前の顔、見たなかったん違うん?」

「奏輔さん!」
 きっと睨みつけると、奏輔さんは慌てて厨房のなかへ戻って行った。
まったく! デリカシーというものがかけらもないんだから。

「うん……。でも奏ちゃんの言う通りやと思うわ。うちも、自分受かって、奈っちゃんは落ちて……。どう接してええかよう分からんとこあったし。それで中学入ったらまたそっちでも友達出来たし、だんだん連絡もせんようになってしもて……」

「うん。でもそれは寂しいかもしれないけど仕方のないことじゃないのかな……」
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