古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
私が暗い思い出に想いを馳せている横で、佐保ちゃんも眉を曇らせて言った。

「うん。奏ちゃんの言う通りやねん。奈っちゃんのお父さん。お嬢さん学校の若草山やったら聞こえがいいから行ってもええけどそれ以外やったら行く意味ない。授業料の無駄やって。そやから奈っちゃん。一校しか受けとらんくて」

「それで不登校に……?」
「それは分らんけど。でも入学してすぐに休みがちになったってお母さん言うとったし。学校が合わんかったのは確かやと思う」

「そうだね。強がりもあったとは思うけど、合格発表の直後は高校での編入を目指して頑張る! って言ってたんだもんね。その後、その気持ちが挫けるような何かがあったっていうことか……」

 私は朝、お店の前で見かけた奈月ちゃんの姿を思い浮かべた。

 黒い髪をショートカットにした活発そうな外見だけれど、うつむきがちに歩いているその姿は確かに元気がなかった。

「奈月ちゃんのお母さんが佐保ちゃんのところに来たのっていつ頃の話?」

「夏休みの始まる少し前。そんで、そのあとうち、心配になって奈っちゃんに会いにいってん。でも奈っちゃん、なかなか出てきてくれんで……お母さんが怒り出しちゃって、私は『ええです、また来ます』って言うたんやけど『せっかく佐保ちゃんが来てくれたのに何やの、いい加減にしなさい!』って無理やり部屋から連れ出さそうとして喧嘩になって……」
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