古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
佐保ちゃんの大きな目にみるみる涙がたまり始めた。

「奈っちゃん、最初はお母さんに怒っとったんやけど、そのうち私の方見て、『何しに来たん! 若草落ちた私が落ちぶれとんの見て笑いに来たんか! どうせこのことも皆に言い触らして面白がるんやろ。好きにしたらええわ!』って……」
「そんな……」

 私が肩を抱くと佐保ちゃんは、堪えていたものが溢れたようにわっと泣き出した。
「そらまあ、いらんことしたなあ」

 テーブルに頬杖をついてぽつんと言う奏輔さんを私はきっと睨みつけた。

「奏輔さん!」
「だってそうやろ。そんなもん来られたないってちょっと考えたら分かるやないか。おかんに頼まれたからって何のこのこ行っとんねん」

「もう! あなたはちょっと黙ってて下さいよっ」
「えー、だって相談されたからやな」

「佐保ちゃんは私に話してくれてるんです。奏輔さんには相談してません!」
「なんやそれ、人の店先勝手に人生相談室にせんといてくれるか」

 駄目だ。この人と言い合っても埒があかない。それより今は佐保ちゃんだ。
 私はハンカチを取り出して佐保ちゃんに差し出した。

「佐保ちゃんが心配してきてくれたのは奈月ちゃんも分かってると思うよ。ただ、ちょっとお母さんの手前意固地になったというか、心にもないことを言っちゃったんじゃないのかな?」

「意固地になったからって言うていいことと悪いことがあるやろ。落ちぶれとんの笑いに来たんか、って……どんだけ僻み根性やねん」

「奏、輔、さんっ‼」
 私の怒り声にも構わずに奏輔さんは続けた。
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