硝子の花片
(か、可愛い…!)
藤堂さんには失礼だが私はそんなことを思っていた。


「あっ、はい!私が睦月 桜夜です!17歳です!よろしくお願いします」

自己紹介という私の使命を思い出し私の意識は現実の世界に戻ってきた。

「おおー!歳近いね!俺の事は平助でいいよ!あ、一応コレでも八番組の組長やってます、桜夜が女子だって事は他言しないって誓うから安心して!よろしくね!」

平助くんは元気よく言った。白い歯を見せて笑う顔が幼い少年にも見える。それでも組長ってことは沖田さんと同様、強いって事だ。

「あ、土方さん!近藤さん!他の幹部には俺から伝えとくよー。じゃあ、巡察の時間だから、またね!」

平助くんは元気な声で言い残して、来た時と同様ドタドタと足音を響かせて去っていった。…まるで嵐みたいな人だけど笑顔は近藤さんと一緒で太陽みたいに明るいなぁ。

「桜夜さん、じゃあまずはその服をどうにかしましょう。」

「あっ」

そうだった。ブレザーにスカートのままの姿だったのだ。

「いいか、言動に気をつけろ。人がいいのは一部の人間だけかもしれねぇからな。」

土方さんの不器用な優しい言葉を背に受け、沖田さんの部屋へ戻った。


「えーっと、私の着物でいいですか?」

「はい、貸してもらうのも申し訳ないくらいなので…!」

沖田さんから渡されたのは水色の着物と藍色の袴とその他一式だった。

「…1人で着れますか?」

沖田さんは私の心を読んだのだろうか。
実は私は袴は履けても着物が着れない。
袴は多分剣道着と同じだと思うのだが…

「…着れません…」

私が小さくそう言うと沖田さんはため息混じりに苦笑して後ろを向いた。

「できる所まで着て、中にさらしをまいてください。それが出来たら私が手伝います。それまで後ろを向いて待っていますから。」

そうだった。沖田さんはどんなに中性的でも綺麗でも男子なのだ。それを配慮してくれているのだ。

「ありがとうございます!」

私は言われた通りにして着物を羽織る所までやってみた。

「沖田さんお願いします」

そう言うと沖田さんは振り返ってパパパッと着付けを終えてしまった。

「…少し丈が長いようですが大丈夫ですか?」

そりゃそうだろう。沖田さんは背丈が大きいのだから。

「大丈夫です!」

こうして私は昔の人になりきって現代へ帰るその時まで新撰組と暮らすことになった。

その生活はすぐに時が過ぎるようですぐに桜は散ってしまった。


梅雨の始まりだ。

< 19 / 105 >

この作品をシェア

pagetop