硝子の花片
沖田さんは沖田家の長男だが、姉と歳が離れ過ぎていて長姉のミツさんが跡継ぎとして婿養子の林太郎さんと結婚していた為、家督を継ぐ事は出来なかった。

2歳の時に父親を亡くし、9歳で家を出て、近藤さんが継いだ江戸の剣術道場の「試衛館」に入ったという。

「親も居ないからきっとお姉さんが大好きで離れたくなかったはずだったのに、お姉さんとも離れなければならなくなった。そういう事情があったんだ。
その時の総司は表情があまり無い子供だったらしいよ。俺はその頃は試衛館に居ないから近藤さんに聞いたんだけどね。
…きっと、その時の事が幼い総司にとって心に深い深い傷を負わす出来事だったんだと思う。」

幼くして家族と離れなければならない、そんな酷なことがあったのか。悲しくなって私は唇を噛んだ。

「今は文通もしてるし普通にお姉さんの事が好きみたいだけど、昔負った傷は総司の知らないところで総司を苦しませてるんじゃないのかなって思う。」

平助くんは話し終わって俯いた。
その顔は、悲しそうで、悔しそうでもあった。

「そんなに仲間を想えるなんて、すごい」

私は心からそう思った。私だったらそんなに何年も何年も悩んで助けようとは思わないかもしれない。

得体の知れない部外者に大切な人を救う事を頼むなんて、出来ないよ。

「…そんなに仲間が好きなんですね。そんなに悩んでまで…平助くんも苦しそうですよ、苦しんでる人に寄り添い過ぎて。だから…私で良ければ相談にでものりますから、仲間の為に平助くんまで苦しまないでください。」

私はそう言った。
(今朝までの私とは大違いだな…)
でも、伝えたかった。苦しんでる人を救おうとしている人が苦しんでしまっては意味が無いという事を。
私達は沖田さんを笑顔で支えていかなければならないのだ。苦しみから救う、とはそういう事だと私は思うのだ。





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