君が眠る時には
意味がわからない。
「なにおにーさん、夜遅くに女子高生っぽい人に声をかけることが仕事なの?楽しそうだね」
「ちがうちがう。僕はね、上原相談所って言うところを経営しててね」
私の嫌味なんて気にしていないかのような爽やかな笑顔で、ポケットを漁り始めた。
出てきたのはどこにでもあるようなシンプルな名刺。
「悩み事なんて別にないし」
「そうだといいな。
でも一応名刺を渡しておくよ。何かあったらいつでもここに連絡して。
オフィスもこの近くにあるからさ、暇な時にでも寄ってみてよ。
じゃあね」
男性は強引に名刺を渡してその場を去っていった。
お金じゃなくて名刺を握らされたのは初めてだ。
こんな役に立たないものもらっても、何にもならないのに。
名刺を見るとあの人の名前と電話番号が書いてあった。
「上原…なに?」
中学もろくに行っていなかった私は、名前の漢字が読めなかった。
使わないし、迷惑なのに、名刺を財布に入れてる私がいた。
だって、善意だけで声をかけてきた人は、初めてだったから。
それから5日後、私はまた相手を探していた。
携帯をいじりながらしばらく待っていると、ある男性に声をかけられた。
中年でガタイがいい人。
「ごめんね。お金を家に置いてきちゃって、一緒に取りに来てくれない?」