はちみつドロップス
実力テストを翌日に控えた放課後。
ちょっとでも成績の足しにしてくれるという教師の言葉を信じ、急いで書き上げたノートを持った涼希が廊下を歩いていた。
実力テスト……って言うのは名ばかりで、結局は出題範囲も教えてくれるし前日は部活も休み。
それでも、余裕をかませる程、授業態度に自信は無かった。
だからこうして、地道な点数稼ぎで赤点から逃れようとしているワケだ。
「鳥井くん」
「……あっ」
呼ばれて振り返れば思った通り。
そこに通学用に使っている、こじんまりとした無地の手提げを下げた涼姫が微笑んでいた。
思えば最初に声をかけられたのも、この場所だった。
あれから幾日も経って、あの頃キリッと引き締まっていた涼姫の顔は随分と柔らかくなっている。
それを嬉しい、なんて感じてしまう自分は愚かだ。
涼姫がその顔で見ているのは、自分と繋がったところに見える雄楽の存在。
それでも、
「今帰り?」
爽やかに笑い返した自分は、満足してしまう。
頷いた涼姫から目を逸らし、不意に見下ろした窓の外には、
「…………っ」
聖梨と並んで歩く雄楽が居た。