はちみつドロップス
反射的に正面に戻した顔は、ひきつったりしていないだろうか。
不自然に視線を泳がせる涼希に、涼姫は不思議そうにさっきまで涼希が見ていた窓を顔を向ける。
その時、
「涼姫っ」
「えっ……?」
とっさに呼ばれた自分の名前に、涼姫は目を円くした。
真剣な顔をした涼希が、自分の腕をキュッと掴んだからだ。
「あっ、のさ……ちょっと勉強教えてくれない?」
こう言って涼希が目の前に差し出したのは、職員室に持っていくはずだったノート。
まさか赤点しのぎのこれを、こんな風に役立てるとは思いもしなかった。
「明日テストだし、無理にとは言わないけど」
汚い字で殴り書きされたノートを涼姫が見ている間に、チラリと窓の外を窺えばもうさっきまでの後ろ姿は消えていた。
「やっぱ、いいよ。悪いし」
だったら涼姫を引き留めておく必要は無い。
そそくさと腕から手を離し、今度はなるべく自然に帰るように促している。
我ながら滑稽だ。