暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】


「今日を以てあなたは私の侍女から下りなさい」

私のそんな一言でこの場が一瞬止まってしまったかのような静寂に包まれた。

「……えっと、面白い冗談ですね?(笑)」

アニは動いていた手を一度止めたものの、そう言って再び動かし始めた。

これは冗談じゃなくて、真面目な話なのだけど……。

「私は別に一人でも生活出来るし、貴女は何でも卒なくこなす優秀な逸材。そんな人がここにいては勿体ない話。それで、私からアルヴァン様に話しておくから、貴女は明日から違う仕事に就きなさい」

被害を受ける前に、アニは安全なところへ居て欲しい。

それが今の私の願い。


私の言葉を聞いてアニは悲しそうな表情をした。

不自然にならないように気を付けて言ったつもりだったが、逆に急すぎて可笑しかったのだろうか?それとも私の言葉で先にアニを傷つけてしまっただろうか。

そう思い私は次に繋がるような言葉を考えアニへ向けて発そうとしたが、アニがそのような表情をしたのはそんな理由ではなかった。

「………知ってしまったのですね」

「…………」

アニは本当にすごいのね。あれだけで全て分かってしまうなんて。

「理解しているのなら話は早いわ。この場から去って」

賢いアニなら分かるはずよ。ここはすでに他の側妻様から狙われている。命こそは安全だろうけど、侍女である貴女はそうとは限らない。

危険は十分にある。だから……。

「それは出来ません」

「………え?」

私は一瞬自分の耳を疑った。

だって………。

「私はここを去るつもりはございません」

「何言ってるの…っ!?貴女なら分かるはずでしょう?」

「分かりますが理解は出来ないのです」

……理解できないって。

「なぜなら私と同じだからです」

「……私と同じ?」

「はい。スフィア様は私と同じで心に嘘をつくのが大変下手でございます」

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