暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】


そう言葉を発するアニはとても悲しそうで、何とも言えないような憂いに満ちた表情をしていた。

しかし、『私と同じ』とは……?

「不思議そうな顔をされていますね。そのままの意味でございます。スフィア様は言葉とは反対に凄く泣きそうな……いえ泣いておられるのですから」

「……え?」

私はそんなアニの言葉に顔に手を触れてみる。

涙が頬を伝っていた。

「それは……本心ではないのでしょう?」

「違う!これは本心なの!!」

なんで泣いてしまったのか分からない。私はアニをこの場から解放してあげたいのに。

なんで……涙なんか出てくるの?

「スフィア様は侍女の私にとても優しく、守る為には自分を犠牲にしても良いと考えていらっしゃいます。そして、先程発せられた言葉は恐らく偽りなのでしょう」

全て見透かされているかのような言葉に思わず何も言えずに固まってしまう。

「……わ、私は!」

「スフィア様」

何か言おうと強く発した私の手をアニは自身の手で優しく包み込んだ。

「私はスフィア様の侍女でございますよ?」

その声は包み込み手のようにとても優しくて。

「私の『使命』が終わるまでずっと側におります。ですので、安心してください。私は決して離れたりなど致しません」

私に向かってほほ笑む姿に、更に泣いてしまう。

でも泣いているのに悲しくない。心が温かくて落ち着く感じだ。

更に泣いてしまったからか、心配そうに見てくるアニへ涙を拭き、笑顔を見せてみる。

「……ありがとう」

アニにはお礼を言ってばかりね……(笑)

私が弱いから他人へ迷惑をかけるのなら、私は強くなりたい。

アニのように強く凛と。

そして、守られてばかりの立場から次は守る側になりたい。

この側妻という立場を使って。大切なものを守っていきたい。

「アニ、お茶の続きをしましょう」

「あ、はい。だいぶ冷めてしまったので入れなおして参ります」

私はアニの後ろ姿を見ながらこの日、そう強く決意した。


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