暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
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「ここがガルデル王子が勧めた町であるか。賑わっておるな」
「さようでございます。今まで訪れたこの国の町の中でも上位と思われます」
次の日。早朝にお城を後にした一同は早速言われた通り町に足を運んでいた。
半日かかった為早朝に出たはずが今はお昼を過ぎている。
「陛下。どこかで食事に致しましょう」
「そうだな。どこかに良い店でもあるのか?」
「確かこの先を進んだところに王子様行きつけの飲食店があったはずでございます」
宰相はそう言って鞄の中から地図を広げる。
人が多いからか少し立ち止まっただけでも邪魔になってしまいそうな感じだ。
「少し移動致しましょう」
そう言って邪魔にならない場所まで移動しようとした時、
―――――ドンッ!
「きゃ…!!」
第一騎士団団長のギャビンが思わず誰かとぶつかり、相手は思わずバランスを崩し、尻餅をついてしまった。
「すまない!」
急いで尻餅をついてしまった人に手を差し伸べる。
「いえ、こちらも良く周りを見ておらず大変不注意でございました」
手を取った人は身なりの良い女の方。
転ぶ時も庇っていたのは先ほど買われたのであろう新鮮な果物であった。
「お怪我はありませんか?」
「少し腕を擦りむいてしまいましたが、この物に傷がなく良かったでございます」
どうやら大切な物だったようだ。
果物なので傷つきやすい為、転んだ衝撃で傷が入らなくてよかったと一人安心する。
「あれ?あの子はどこへ……」
「あの子とは…」
急に辺りをキョロキョロするその人に首を傾げていると、近くの人混みの中から女性の声が聞こえた。
「チベットさんどこに行かれたのですか?」
「ギャビン!!ここよ、ここ!!」
「どこですか?」
「ギャビン……?」
思わずその名前を呟く。
「私がそっちに行くわ。買い物済んだし早く帰りましょう」
そう言ってその方はその声がする方に体を向け歩き出した。
「ま、待ってください……!そのギャビンとは」
「え?私の友達の名ですがどうかされましたか?」
「その方の上の名は一体………いえ、すいません。何でもございません。すいませんでした」
まさか……違う。
もう何年も前の事だ。
生きているわけがない。
「そう…ですか。では、失礼します」
「はい。こちらこそ」
その人は軽くお辞儀をすると人混みの中に消えていった。