*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
(あんな顔、させたかったんじゃないのに……)
胸がズキリと痛む。
(辛そうな顔なんてしてほしくないのに……)
修平さんの優しい笑顔が大好きなのに、よりにもよって私自身が彼を苦しめたのかもしれないと思うと、心の奥底からじわじわと焦りに似た何かがせり上がってくる。
乾いたと思った涙が、再び下瞼に溜まり始めたその時。
「修平坊ちゃんがあんなふうに自分の感情を表に出すのは珍しいんですよ、杏奈さん。」
「えっ?」
思わず顔を上げると、佐倉さんは口角を少しだけ上げ、その瞳はまっすぐに私を見ている。
「私が瀧沢家の家事代行をさせて頂いて随分経ちますが、世帯主が修平さんになられてからは、まだ二年ほどです。普段の業務の遣り取りはほとんどメールなのですが、お伺いする直前に御用件がある時にはお電話を頂きます。もちろんこちらのお宅で修平さんとお会いすることもございます。」
落ち着いた口調で淡々と話す佐倉さんの言葉に、私は黙って耳を傾ける。
「どちらにしても、これまで‟業務”の時に彼が私情を表に出したことはありませんでした。―――杏奈さんのこと以外は。」
「えっ!」
「杏奈さんがこのうちに初めていらしてから、そのことを電話越しにお伺いした時、あなたが彼にとって特別な人なのだ、とすぐに気付きました。」
「そ、そんなことは……」
「あるんですよ?今朝の電話は特に分かりやす過ぎるくらいで、ああ、何かあったのかもしれない、と思わざるを得ませんでした。」
「………」
修平さんの仕事の時の顔が、普段私に見せるものと違うのだろうということは、私も薄々気付いている。
修平さんの‟お仕事モード”をうまく想像することは私には難しいけれど、遥香さんは『鬼のようだ』と言っていたことを思い出す。
実際、先日図書館の外で聞いた同僚の女性との会話は、ひどくそっけなくて冷たく感じるほどだった。
(そんな修平さんが、佐倉さんにそこまで言われてしまうって……)
ハウスキーピング会社の社長をしているだけあって、佐倉さんはとても勘が良く、他人のことをよく見ていると思う。
彼女が嘘を話していると疑う気持ちはないけれど、お子様な私とは違って大人の男性である修平さんが、佐倉さんが言うように電話越しで感情を表に出すなんてイマイチ信じられない。
思っていることが顔に出ていたのか、私の顔を見た佐倉さんが、息をつく音が小さく聞こえた。