クールな御曹司の甘すぎる独占愛

「奈々さん」
「は、はいっ」


いきなり名前を呼ばれ、奈々はその場で背筋をピンと伸ばした。
依子がそばに立つ奈々に目線を上げていく。


「いつからお願いできるかしら?」
「……では、取引をさせていただけるんですか?」


奈々の質問に依子の目が一瞬見開かれる。


「私がなにをしにここへ来たのか、わかっていらしたの?」
「はい。いくら昔の光風堂をご存じとはいえ、花いかだほどの料亭の女将さんが味を確かめもせずに決めはしないだろうと」


昨夜は水瀬の顔を立てるために了承したのであって、真の結論は出していなかった。商売がそんなに甘くないと奈々もわかっている。


「驚いたわ。昨夜の口約束で取引が決まったと考えているだろうと思ったわ」
「……と言いましても、依子さんが来店されたときにそういう考えに至った、ワンテンポ遅いものでしたが」

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