クールな御曹司の甘すぎる独占愛
奈々は水瀬の言動一つひとつに翻弄されるばかり。ほかに交わすべき言葉を見つけられず、黙って水瀬のエスコートに身を任せた。
奈々が連れられてきたのは鉄板焼きの店。ふたりは大きな鉄板が目の前にあるカウンター席に案内された。
天然木の鉄板焼きテーブルの上に置かれた和紙製のランプが、店内をやわらかく照らしている。あたたかくノスタルジックな空間だ。
カウンターの中にはマーケット風にディスプレイされた新鮮な食材が並び、シェフに希望を伝えると、それを使って料理をしてくれるスタイルらしい。
初めてこういった店に来た奈々はオーダーのすべてを水瀬に任せ、目の前でシェフが華麗に仕上げる料理に見入った。
軽やかな酸味のポン酢ジュレのアワビも、ごまだれで食べる黒毛和牛のステーキも、出される料理はみな《おいしい》という率直な感想しか出てこない。分野が違うとはいえ、奈々も食を扱うプロ。ほかに言うことはないの?と自分に苦笑いだった。
「今夜は、奈々にこれを食べてほしかったんだ」
コースのラストを飾るデザート。水瀬はそれを奈々に見せたかったと言う。
一見すると豆腐。しかしシェフが鉄板で焼き始めたのは、なんとアイスクリームだった。