クールな御曹司の甘すぎる独占愛
ぎこちない笑みを浮かべながら奈々が首を横に振っていると、店の奥から清人(きよと)が出てきた。
「それじゃ、お先に失礼しますね」
「はい、お疲れさまでした。明日もまたよろしくお願いします」
「清人さん、またねー」
ひらひらと手を振る明美の横で奈々は丁寧に頭を下げる。
笠原清人、光風堂の和菓子職人である。
四十歳の清人は高校卒業と同時に父の元で和菓子の修業を始めた、いわばベテラン。同じく職人を兼務している奈々の大先輩だ。子供の頃からあんこが大好きで、奈々の父親が作る和菓子の大ファンだったらしい。
短髪の黒髪は清潔感があり、職人気質で無口だが腕は確か。奈々もとても信頼している。十年前に結婚し、ふたりの娘の父親でもある。
朝五時から和菓子を作り始めるため、商品が出揃うお昼過ぎには帰宅する。ここ一年は奈々も店の運営に手一杯で和菓子を作れずにいるため、清人に頼りきりだ。
そして光風堂には、もうひとりスタッフがいる。それはサンドなどの軽食を調理している今井道隆(いまいみちたか)。彼は三十五歳の独身。
食べるのが大好きだと身体全体で表現して歩いているような、とても大柄な男性だ。明美は愛を込めて《トドさん》と呼んでいるが、優しい道隆はまったく気にする様子はない。それどころか、そう呼ばれるのを喜んでいるようにも見える。
「明美ちゃん、クラブハウスサンドができたよ」
厨房から聞こえてきた道隆の声に、明美は「はーい」と明るい声で返した。