クールな御曹司の甘すぎる独占愛
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閉店まであと三十分となった午後五時半。店内にお客の姿はなく、奈々はちらちらと腕時計を確認しては、光風堂の入口に視線を投げかけていた。
セミナー終了後に寄ると言っていたのは、ただの社交辞令だったのかな。……そうだよね。あんこのうんちくをペラペラ語り出したから、そう言うよりほかになかったのかも……。
調子に乗って話したことを後悔しながら、奈々は水瀬を待っている自分に気づいた。
やだ、私ってば、どうしてそんなに気にしてるんだろう。普段のお客様とのやり取りと、なにも変わらないのに。明日、店に出す商品の確認もしなくちゃ。
気持ちを切り替えてショーケースに残っている商品の残数を奈々が数えていると、明美の「いらっしゃいませ。あっ、昼間の……。おふたりさまですか?」との声が聞こえてきた。ショーケースから顔を上げると、そこには水瀬と柳の姿。
「いらっしゃいませ」
もう来ないだろうと思っていた奈々の声が弾む。
「奈々さん、こんにちは。……あ、もう外が暗いから“こんばんは”かな」
「そうですね。こんばんは」