クールな御曹司の甘すぎる独占愛
これ以上その場にいられなかった。今すぐにでも晶の胸に飛び込みたい。そんな想いを封じ込めるには、彼の前から姿を消す以外に方法を見つけられない。
奈々は一礼すると個室を飛び出し、そのまま花いかだをあとにした。
走って走って、とにかく足を前に出す。晶と別れた場所から、一刻も早く遠ざかりたかった。
どのくらいそうしたのか、気づけば見知らぬ街にいた。
喧騒が遠のき、暗がりにぼんやりと浮かぶように公園があった。赤い色をしたジャングルジムに今にも消えそうな外灯があたり、頼りない影を伸ばしている。
奈々はひと気のないその公園に足を踏み入れ、朽ちかけたベンチに腰を下ろした。
懸命に走っていた足を止めたせいか、晶と別れた事実が後ろから追いかけてくる。それはあっという間に追いつき、奈々の身体を覆いつくしていく。胸の奥から悲しみがせり上がってくるのを奈々はなんとか押さえつけた。奈々にはまだ、やらなければならないことが残っている。
バッグからスマホを取り出し、ミヤビから手渡されたメモの番号をタップしていく。
数コールで出たミヤビは奈々からの電話だと知ると、《なにか用?》と気のない素振りだった。
「……晶さんと別れました」
《本当に別れたの?》
電話の向こうのミヤビの声が弾む。