クールな御曹司の甘すぎる独占愛


「いえっ、違うんです。違います。水瀬さんにそう思われるとは想像もしていなくて、ちょっと驚いただけなんです。佐野くんは、大学を卒業して二年半だけ働いていたナカノハウジングの同期で」
「……光風堂は確か、四代続く老舗和菓子店だよね?」


水瀬は、奈々が企業勤めをしていたとは思いもしなかったのだろう。奈々が慣れない経営に携わっている理由を知らなければ、それも当然だ。


「光風堂を私が継いでから、まだ一年ちょっとなんです。両親を立て続けに病気で亡くして」
「……そうだったのか。それであんなに懸命に……」


水瀬は沈痛そうな面持ちでうなずいた。


「父が亡くなるまでは和菓子職人としてお菓子を作っていたのですが、今はなかなかそういうわけにもいかなくて」


車内が一気に重苦しい雰囲気になった気がした。これではいけない。奈々は湿っぽい空気にしたかったわけではないのだ。

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