クールな御曹司の甘すぎる独占愛
「両親が亡くなったのは、私の中でもう踏ん切りがついていますので心配しないでください。それと、彼氏はいません。佐野くんは友人です」
奈々は努めて明るく返した。
彼氏と呼べる存在がいたのは大学生の頃だから、もう五年以上も前。同じ旅行サークルのひとつ年上の先輩だった。
先輩からのアプローチで付き合うようになったが、彼が就職して時間がすれ違うようになり自然消滅。ほんの数ヶ月前に友人づてで結婚した話を聞いた。
「それは好都合」
「……好都合?」
「いや、こっちの話」
やけにニコニコした水瀬の鼻にはシワが寄っていた。
なにがどう都合がいいのだろう。首を傾げる奈々に水瀬は「光風堂は絶対に潰させない」と表情を引きしめた。
今夜二度目になる水瀬の頼もしい宣言に、奈々は心の底から元気が湧いてくる。これほどまでに自信をもって言ってくれる人は、きっとほかにはいないだろう。
「ありがとうございます」
頭を下げた奈々の頬に、水瀬の手が触れる。思わずビクンと肩を弾ませた奈々だったが、その手を振り払おうとは思わなかった。むしろ、もっと触れたいとすら考えるほど。
ダメダメ。水瀬さんには素敵な彼女がいるに違いないから。その存在を思い出して、なんとか自分の気持ちを制御した。