クールな御曹司の甘すぎる独占愛
「トマトのほうでございますね。かしこまりました。では、こちらで少々お待ちくださいませ」
「あの……それを“鳳凰の間”の控え室に届けられないですよね?」
レジに一番近いテーブル席を案内しようとすると、男性は恐縮しながら明美の反応を見つつ尋ねた。
鳳凰の間と言ったら、五階にある披露宴会場としても使われるホールだ。
明美がチラッと送ってよこした視線に「大丈夫よ」と口パクで言いながら奈々がうなずく。それを見て安心した明美は、お客に目線を戻した。
「はい、お届けいたします」
「いいんですか?」
「はい。ただ、お支払いはこちらで済ませていただきたいのですが」
「それはもちろんです。でもよかった。実は大至急会社に忘れ物を取りに行かなきゃならなくて」
彼によると今日の午後、エステラでセミナーを開催する予定になっているが、大事な資料を忘れてきたので取りに行きたいとのこと。控え室にいる水瀬(みなせ)という男性にサンドを届けてほしいと言う。
彼はサンドとコーヒーの代金と名刺を置き、人懐こい笑みで「よろしくお願いします」と頭を下げていった。