クールな御曹司の甘すぎる独占愛

◇◇◇

打ち合わせをする前にどこかで食事をしようということになり、水瀬の車は繁華街から少し外れた静かな路地にある駐車場の一角に止められた。街灯がいたる場所にあり、そこそこ明るい。“花いかだ”と毛筆で書かれた看板が立ててある。

十台ほど止められるスペースは、水瀬の車が駐車して満車となる。見渡してみれば、黒塗りの高級車ばかりで、よくよく見てみれば運転席には人が乗っている。要人も出入する店なのか、運転手はここで待機しているのだろう。

奈々がドアに手をかけて降りようとすると、水瀬は「待ってて」と制止して運転席から助手席へ回り込む。ドアが開けられ、水瀬は手を差し出してきた。

奈々は戸惑いながらその手に自分の手を重ねる。すると一気にふわりと引き上げられ、奈々は助手席から降ろされた。


「ありがとうございます」


そうお礼を言ったとき。奈々のバッグの中でスマホが振動を伝えた。取り出してみると、それは佐野からの着信。


「ちょっとすみません」


ひと言断り、奈々は水瀬に背を向けて応答をタップした。

< 85 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop