クールな御曹司の甘すぎる独占愛
女将の名前は依子(よりこ)。ここに店を構えてから十五年になるそうだ。水瀬が新人時代にクライアントに連れてきてもらい、それからはよく利用しているらしい。
依子はふたりを奥の個室に案内してくれた。
ほどよく明かりが落とされ、落ち着いた風情。丸窓からは、美しく手入れされた中庭が見える。
個室のドアが閉められると、水瀬とふたりきりだと急速に意識し始める。BGMもない部屋は静かで、奈々が深く息を吸った音まで響いた。
「そんなに緊張しないで」
水瀬がふっと笑みを漏らす。
「はい」
そうは答えたが、水瀬からの予期せぬ告白が、どうしたって奈々の気を張りつめさせる。
私の心臓、帰りまでもつのかな……。
そんな不安まで覚えた。
注文はすべて水瀬に任せ、料理が運ばれてくるのをひたすら待つ。その間も、向かいに座る水瀬からは、とろけそうなくらい甘い眼差しが注がれ、奈々は自分が生きている心地すらしなかった。ふわふわと浮かび上がり、天にでも上った気分。未だに水瀬からもらった言葉が信じられない。