透明な檻の魚たち
 少年と少女では、成熟する速さに差がある。女子は中学校で成長期を終え、高校生になるころにはほとんど身体ができあがっているのに、男子は成長期のアンバランスさを伴って高校に入学する。

 成長期は始まったけれど終わっていない、半端に伸びた手足。声変わり途中の、独特のアルトの声。
 そんな男子たちが、私は学生時代から苦手だった。嫌悪していたと言ってもいい。

 成長期特有の熱気が、教室に充満すると息苦しくなった。ほこりっぽい教室の中、汗臭いような匂いが、つんと鼻につく。

 高校に入ってしまえば、三年間の間で男子の身体はほとんど大人へと成長を終える。その微妙な時期の、顔はつるんとしていて頬のラインも幼さを残しているのに、身体の大きさだけは一人前なアンバランスさが、私は苦手だった。

 女の子に親切にすることや、紳士のふりをすること。多少の大人の振る舞いを覚えても、見え隠れする幼稚な行動と言動。

 それをあんなに嫌悪していた私が、学校司書になるなんて、自分でも意外に感じる。この学校を卒業するときは、この場所に戻ってくるなんて、考えてもいなかったのに。


 水槽の底に潜ったような静寂に満ちた、この図書室に。


 本当は、恐れていたのではなく、憧れていたのかもしれない。閉鎖された水槽の中で、すくすくと手足を伸ばす彼らを。
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