透明な檻の魚たち
 日曜日。吐く息が白くなる寒さの中、ひょっこり顔を出した、つかの間の春の陽気。私は家からほど近いショッピングモールに来ていた。

 洋服店も、大きな本屋さんも、映画館もある、今はやりの複合型ショッピングモールだ。スーパーやレストランもあり、ここに来れば一日つぶせることから、私はよく一人で休日に来ていた。

 ここで一日を過ごすうちの大半は、本屋での物色・立ち読みに占められ、残りの時間は適当に、観たいものがあったら映画を観る、洋服をウインドウショッピングする、という感じだった。

 恋人もいない、趣味もインドアなさびしい公務員の休日なんて、こんなものだ。でも私はこういった休日が好きだし、満足している。わざわざコンパに出かけたり、異性と出かけたりしてこういう時間が減るのだったら、いっそのこと恋人はいなくてもいい、とまで思っている。

 自分でも、その考えかたは末期だぞ、まずいぞ、とは思っているのだけど。どうも私は、二十代半ばになっても結婚願望がなく、危機意識がうすい。

 ひとりで本を読む時間を尊重してくれる相手がいればいいけれど、そんな人、いるのかしら……。探しもしないで、そんなふうに決めつけている自分は、はっきり言ってしまえば恋愛が億劫なのだと思う。

 大学時代に、彼女がいた同級生と大恋愛をし、その結果付き合うことになっても様々な弊害があった。前の彼女との人間関係とか。その結果サークルに身の置き場がなくなったこととか。別れても前の彼女を庇う彼に対しての苛つきとか。

 それで私は疲れてしまった。その恋愛で得たものより、失ったものたちのほうが多かった。だから私は今でも恋愛が怖いし、人をうまく信じることもできない。人生に、飽いていると言ってもいいのかもしれない。毎日が、ただ惰性で過ぎていった。つい最近、一条くんと出会うまでは。
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