国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「これは?」

布袋から中身を手のひらに出すと、コロンと小さな実のようなものがひとつ出てきた。胡桃のような褐色で表面はごつごつしている。見たこともない実だ。

「ま、まさか……これって毒の実じゃ……」

そう思うと、不思議とその実が禍々しさを帯びて見えた。すると、ジェイスがクスッと笑ってミリアンを安心させるように肩を撫でた。

「遅効性だけど、ただの催眠効果のある実だよ。この実を砕いて粉末にしてから使うんだ。仇を取ると言ってもあいつは警戒心も強いし腕もたつ。即効性のある大抵の毒はあいつも全部知ってるし、匂いでわかってしまうからね」

この実を砕いた粉を飲ませ、機会を見計らって討つ。

眠っているレイのその胸に、短剣を突きさす自分の姿を想像してミリアンはごくりと喉を鳴らした。

「これはリムルの王室で最近、極秘に作られた実なんだ。だからきっとあいつも知らないはずだよ」

「ジェイス、私――」

「大丈夫。君ならきっと母上の仇を取るって信じてるから、そして僕と幸せになろう」

“できない”そう言いかけた言葉が、再びジェイスの抱擁によって遮られる。そしてふわりとジェイスの香がミリアンの鼻をかすめた。すると、この実を受け取った時に沸き起こった緊張が和らいで、思考さえも緩慢になっていくような心地になった。
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