極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
私の視線を受け止める彼の顔が、じわりじわりと険しくなって、やがて耐えられなくなったのか、不機嫌な声を絞り出した。

「やめろ。そんな顔するな」

額に手を当ててうんざりとした様子で立ち上がり、この部屋から出ていくつもりなのか、私に背を向けた。

「待っ……」

咄嗟に彼のジャケットの裾を捕まえる。ぎょっとしたように振り返る彼に――。

「い、行かないで……」

か細い、蚊の鳴くような声で、私は人生最大のわがままをぶつけた。

もちろん、普段の私はこんなこと、絶対に言わない。

どちらかというと聞き分けのいいキャラで通っていて、恋愛とか情事とか、そういうのとはほぼ無縁の生活を送ってきた。

お酒の力を借りたのもあるが、今日が最後という切迫感が私の背中を押した。

どうせ砕けるなら当たってから砕けたい。なにもしないまま風化してしまうなんて、嫌……。
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