はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
「若菜さんには、桐生さんの日記を頂いたもの。

だから、私も自分が大事にしていたものを差し上げただけ。」



翠子が劇の準備で生徒会室に戻ってると聞いて、駆けつけた私の質問に彼女はそう答えた。



深い意味なんて無いわと微笑む翠子を見て、私を含めた周囲の生徒は脱力した。



「翠子さんは、ローザリーの契約のことは考えてなかったんですか?」



「私ね…、欲張りなの。」



翡翠のロザリオを、簡単に手放した翠子が欲張り?



「1人だけなんて、選べないわ。」



その言葉を聞いて、聖愛が言った通りだと思った。



翠子が出る劇を見るため講堂へ向かうと、既に野田先輩が席を取ってくれていた。



演目はロミオとジュリエット、悲恋で有名な物語だ。



坂下に実ることない想いを寄せたまま雁字搦めになってる私にとっては、この物語みたいに相手も自分のことを想ってくれるだけマシだと思う。



背の高い翠子は、必然的にロミオを演じた。



カーテンコールの中、野田先輩が呟く。



「身につまされる話だな…。」



いつか翠子と引き離されるという思いが、野田先輩にはあるんだろう。



そんなことをつゆにも考えてない様子の翠子は、観客に応えてた。



翠子の視線が一点に留まったから、私はその方を見る。



隅の方で立見してた聖愛が、まるで自分の不幸を嘆くかのように涙を流していた。








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