はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
文化祭がもうすぐ終わろうという頃、野田先輩のクラスに寄った。



「先輩、見かけませんでした?」



その場にいた澤弥先輩に聞くと、おそらく展示場にいるんじゃないかということだった。



書道部の展示会場か…。



行きたく、ないなぁ。



そう思いながら、重い足取りで向かう。



「よぉ、桐生。」



なんて、野田先輩は受付のパイプ椅子に座ったまま声をかける。



「あっ!」



野田先輩の後ろの壁を見た私は、驚いて声を上げた。



私の作品が、飾られていた。



「これ…。」



「3年に脅された1年たちが作品を始末してたんだけど、破くの躊躇した奴がいてな…。

1枚だけ、キレイに残ってた。」



そういえば、その場でズタズタにされてた作品たちの中で、1枚だけ忽然と消えたものがあった気がする。



感傷に浸る間もなく、私は野田先輩に聞きたいことがあったのを思い出した。



「私が講堂を飛び出した後、何があったの?」



「やらかしたのは俺じゃなくて、翠子。

生卵ぶつけた1年に、バケツん中の墨汁ぶっかけた。」



翠子さんが!?



「いやぁ、爽快だったぜ。

『私のローザリーに手を出すな』って、言ってのけたからな。」



翠子は…ローザリーの契約、誰とも結ぶ気無かったんじゃないの!?



野田先輩は、出入口に視線を移した。



「そこの1年、ちょっと受付代わって。」



声をかけられた大人しそうなコが中に入るのと入れ違いに、野田先輩は出て行った。



そのコは椅子に座ると、私を上目遣いに見て会釈した。



その瞬間、今飾られている作品をこのコが守ってくれたんだと感じた。



「ありがとう。」



そう呟くと、そのコがはにかんだ。








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