だから何ですか?





そんな俺の下心の様な欲求なんてまるで分かってないんだろうな。


会社では見せないような無邪気さを滲ませて、こっちこっちと前を歩く姿は大人なのに子供の様で。


大人っぽく響いて聞こえていた筈の靴音があどけなく感じるのは気のせいなのか。


手を繋いでしっかりと捕まえている筈なのに、



「亜豆、」


「はい?」


「お前・・・俺の前歩くな」


「はっ?」


「抱きしめたくなる」


「・・・・」



本当、抱きしめたくなるんだよ。


お前を好きだって自覚してから、自分が如何に貪欲で抑制の苦手な人間か改めて知った気がするんだよ。


本心からの一言は思わず真顔な状態から発せられてしまった。


そのせいなのか言葉を向けられた亜豆もキョトンと呆けて俺を見つめる。


ああ、しまった。


せめて意地悪く笑ってそれを言えば幾分か反応も返しやすかったんだろうか?と無言の間に反省が浮上し始めた頃合い。



「煽らないでくださいよ」



鼓膜に響いた声に僅かずらしていた視線を彼女に戻す。


そうして捉えるのは浮かんだ羞恥をかみ殺しているようなはにかみと言うのか。


煽ってるのはどっちだ。





< 143 / 421 >

この作品をシェア

pagetop