愛してるからこそ手放す恋もある

「知り合いか?」

以前もここで誠に声かけられた事がある。でも、小野田さんは気がついていないようだ。

彼の問いに焦りはしたが嘘をついた。

「え…ええ…学生時代の友人です…」

正しくは、元婚約者と親友であり、私と誠を引き合わせてくれた人。

久しぶりに誠に会って、胸の奥に痛みを感じる。
違う誠に対してじゃない。
悠美の大きなお腹を見て嫉妬してるんだ。

「元気そうで良かった。体は大丈夫?」

と微笑む誠に無難な返事をして顔を反らした。

「ええ…そちらもお元気そうで…」

もう忘れた筈だったけど…
私まだ忘れてなかったんだ…

「そう学生時代の友人…?積もる話もあるだろうから、梨華はゆっくりして来たらいい」

彼はそう言うと私の持っていた買い物袋を私から奪った。

「えっでも食事?」

「デリバリー…ピザでも頼むから心配するな?」

彼は素っ気なく言うとマンションの中へ消えて行こうとした。

デリバリ…?

私が知る限り、この人はデリバリーなんて頼まない。ピザやB級グルメが嫌いな訳でもない。ただ食べることに無頓着なだけだと思う。それに佳代さんの事もあって、私の用意した物しか食べない。社食だけは食べる様になったが、それも、何やら理由があるみたいだし、だからちゃんと用意しないと…

「ごめん…私行かなきゃ!」

そう言って私はロビーの中へ入ろうとした。
だが、「梨華!」と呼ばれ誠に後ろ手を捕まれてしまった。

「頼む…少し時間くれないか?話がしたい」

「ごめん…私にはなにも話すことはないから…」

悠美の膨らんだお腹を見て穏やかに話せるほど私は出来た人間じゃない。

まさか、親友と思っていた悠美と誠がそういう関係になっていようとは思いもしなかった…

私が病によって子供が産めないことも、それによって、婚約を破棄されたことも悠美は知ってる。

なぜ悠美なの…
目頭が熱くなる。

あの時の悔しさがよみがえる。

だめ…
今は泣いちゃだめ!

私は爪が掌に食い込むほどに拳を握って涙をこらえていた。




< 111 / 133 >

この作品をシェア

pagetop